『彩の女』  平岩弓枝

<気がついて章一郎は近づいて、佳奈の帯締めをほどいた。続いて、帯あげの結びめを解く。女の和服には馴れていた。(中略)着物も帯も、年齢より地味でひかえめな佳奈が、みえないところには、存分に華やかな色彩を使っているのが、はじめてわかった。日本舞踊を習っているような娘でも、紐や伊達締めなどは随分、くたびれたものを平気で用いているのが案外、多いものだが、佳奈のそれは、今日、おろしたてのように真新しく、手ずれしていない。身だしなみのいい娘であったことが、章一郎を満足させていた。そうではないかと、ひそかに想像していたことが、事実であった悦びである。>

 

なんとも意味深なシーンですが。ちなみにこの二人には残念ながら(?)この後特別なことは起こりません。事情で前後不覚になった佳奈を、ひそかに佳奈に対して恋愛感情を抱いている章一郎が介抱しているという状況です。

子どもの頃から母によく「外出するときにはきちんとした下着を着けていきなさい。どこで何があるかわからないから。事故にでもあって病院に運ばれた時でもみっともなくないように。」と言われていました。このシーンを読んだとき、母のその言葉を思い出しました。

せっかく母に躾けてもらったにもかかわらず、私は気を抜いてしまうことがあります。

着物に着替えている時、手ずれのした紐を使っている自分が鏡に映ると、このシーンが頭に浮かびます。

前後不覚になり異性に介抱される……などということはもう起きないと思いますが、救急車で運ばれる可能性は大です。

いや、それ以前に自身のために身だしなみの良い自分でありたいと思います。

 

 

2017年09月01日