<坂西が海棠の狂い花を眺めていたとき、山門の方で白いものがひるがえった。里子だった。おや、今日は白っぽい着物をきている、と坂西がみていたら、里子は左足をちょっとひねるようにしてあげて山門のなかに踏みいれ、つづいて右足をやはりひねるようにあげ、なかに入ってきた。山門の敷居が高いからであった。褐色にくすんで行く十月の風景のなかで、水を点じたように白い着物があざやかだった。>
学生時代に立原正秋の作品に出会ってから、ひととき私はかなりカブレていました。
彼の作品に出てくる女性のほとんどが着物を着ていて、当時、着物の「き」の字も知らなかった私でしたが、自分をその着物の女性に置き換えて、所作などをよくイメージしていました。
このシーンは、なんともないような些細なものですが、そんな私の心の中にその所作の色っぽさが強く残ったものでした。
そして「大人の男性というのは、こういうところを見ているものなのだな」とも学んだのでした。